「チーム月島」に独占インタビュー『ルートダブル』や『神椿市建設中』などを手掛けるシナリオ制作事務所に、ゲームシナリオの作り方を聞いてみた
アルテマ攻略班
ゲームに必要不可欠な要素に、「シナリオ」が挙げられる。『テトリス』にシナリオはないでしょ、と言われたらそれまでだが、少なくとも現代のゲームにおいては、最も重視されるべき要素の一つだろう。運営型のソーシャルゲームにも、シナリオを最大の売りにしている作品や、シナリオ面・世界観を評価されている作品が増えてきている。
今回は、そんなゲームシナリオを手掛ける制作チーム『チーム月島』の「月島総記」氏に、アルテマが独占インタビューを行った。シナリオライターの仕事ぶりや実情について興味深い内容を聞けたので、是非読んでみてほしい。
チーム月島の始まり
――まずは、シナリオ制作チーム「チーム月島」の始まりについて教えて下さい。
月島総記氏(以下、月島氏):
元々は2008年頃から、自分と弟の月島トラの2人でシナリオライターをしていたのが前身として、今の活動に繋がっています。
チーム月島として立ち上がったのが、2011年ですね。ある作品を作る段階でライターを1人加えた時に、団体名が必要ということで『チーム月島』を名乗るようになりました。
――なるほど。では2008年から2011年までは弟さんと一緒に活動していきながら、徐々にチームを大きくしていこうという流れだったんでしょうか?
月島氏:
いえ、特に大きくしようという意識はなかったです。元々気の知れた弟と2人で組んでいたので、自然とその形のまま活動を続けていました。
3人になったのは、2011年に『ルートダブル』という作品に携わったことがきっかけですね。ルートダブルはボリュームが膨大な作品で、2人だけで完成させるのは難しかったんです。そこで元々親交があった日向もやしというライターを加えて、チーム月島として活動するようになりました。
――ありがとうございます。次に、事務所内の雰囲気や普段の活動について教えて下さい。
月島氏:
ライティングの作業をしている時は、それぞれ執筆室で黙々と書いているだけですけど、それ以外の時はだいたいずっと喋っています。
うちは作品について長時間の打ち合わせをするんですけど、それ以外にもどういった作品が面白いかみたいな、作劇についての議論だったり、雑談をひたすら喋り続けているような感じです。
――常にライター同士で情報を共有しあって、作劇へ反映させるということでしょうか。
月島氏:
そういうことです。たくさん喋ることが作劇の原動力だと、自分たちは思っているので。
――チーム月島のライターさんは何名ぐらいで構成されているんですか?
月島氏:
常駐というか、正式に名を連ねているメンバーは自分と月島トラの2名だけです。その他、プロジェクトによっては外注ライターさんに入ってもらったりしているので、全体でいうと6~7人くらいですね。
ライター業務の流れ
――作品に携わる際の、業務の流れを教えて下さい。
月島氏:
はい。ちょうど今、大きなプロジェクトが始まるところなんです。やはり、先程も言ったとおり作品についてとにかく喋りまくります。こういうのが面白いんじゃないか、だとか、こういう作品が好きだ、とかですね。
今回のプロジェクトの場合は、これから1ヶ月ぐらい喋り続ける予定です。
――1ヶ月も!(笑)
月島氏:
ええ(笑)。キャリアの最初の方からそういう作り方をしていたので。1日8時間とか長くて12時間とか、そういう単位で喋り続けます。
――具体的にどういった内容を話されるんですか?
月島氏:
例えば『ルートダブル』というゲームは、複雑かつ膨大な一種のミステリー作品で、クリアまでのプレイ時間がだいたい70時間ぐらいなんですね。
そのプレイ時間の中で起こること全てを、喋り続ける過程で事細かに作っていくような感じです。たくさんいる登場人物のやり取りを、ライター同士で演劇のように実際にシミュレーションしていくんですよ。
――大まかな流れを作るというよりは、実際にテキストとして使うものを話しながら決めているんですね。
月島氏:
最終的にはそういうことになります。最初は大まかなところからですが、段々と具体的に作っていくという過程です。「今週は火に囲まれた中で敵と戦うシチュエーションを実際にやってみようか」、みたいな感じで。
――そういう作り方をしているとは知りませんでした。
月島氏:
業界内でもすごく特別な作り方をしているのかなと思っていたんですが、リモートの普及によってこういうやり方をしている人が増えたかもしれません。長時間の打ち合わせを望まれる方が意外と多くて。
うちは2010年頃にはもうリモートワークを取り入れていました。『ルートダブル』は中澤工さんという監督と一緒に作ったんですが、中澤さんは東京、私は北海道在住なので、リモートで毎日10時間とか喋っていた記憶があります。
――打ち合わせはリモートでやっているんですね。
月島氏:
はい。大きなプロジェクトが始まる時には東京にご挨拶に伺ったりもしますし、対面じゃないとやりづらいという方もいるので、そういった時には東京で打ち合わせをしますが、基本的にはリモートです。
――ちなみに、業界では一般的にどういう作り方をしているんでしょうか。
月島氏:
他のライターさんを見ていると、結構メールベースでのやり取りが多いですね。そこまで打ち合わせを重視しないライターさんやディレクターさんもいて、中には全く打ち合わせをしたくないというディレクターさんもいらっしゃいました。
打ち合わせはごく短時間、あとはメールベースでやり取りというやり方が一般的なんじゃないかなと思います。
シナリオライターを志すきっかけ
――シナリオライターを志すきっかけを教えて下さい。
月島氏:
幼少期のきっかけでいうと…どうだろう。子供の頃からなるものだと思っていたので。シナリオ面で痺れた、影響を受けた作品は、『ファイナルファンタジーⅥ』と『魔界塔士サガ』ですね。
どちらもファンタジー要素とSF要素がある作品で、こういうものを作ってみたいと思うようになり、RPGツクールやサウンドノベルツクールでオリジナルゲームを作り始めました。
――子供の頃からゲーム作りをしていたんですね。
月島氏:
はい。ただ、北海道在住の自分はシナリオライターになる方法が分からなかったので、とりあえずスクウェア・エニックスさんに小説を送ったんですよ。
当時スクウェア・エニックス小説大賞というものをやっていまして、それに入選したのをきっかけにスクウェア・エニックスさんとお仕事をさせていただくようになったんです。
――なるほど。元々ものを書く仕事に就きたいという思いがあったんですか?
月島氏:
そうですね。自分は田舎の生まれで周りに娯楽が少なかったので、本とかゲームが外の世界への扉という感じでした。それに両親が本をよく買い与えてくれたり、ゲームにも理解がある方だったので、物語に触れる機会が多かったんです。
はっきりと物語を書く仕事に就きたいと自覚したのは、小学4年生のときです。小説家という職業があるということを、本を読んで遅まきながら知って、自分も是非そういうものになりたいと思うようになりました。
――ファンタジーやSF系の作品が得意と見受けられたのですが、やはり幼少期から触れてきたからなのでしょうか。
月島氏:
やっぱり原点がファイナルファンタジーシリーズ、というのがあって、ファンタジーはすごく好きでした。というより、昔のRPGってファンタジー系の作品が大多数を占めていたので、昔からゲームに多く触れてきた自分にとってファンタジーは慣れ親しんだものです。
SFは…そうですね。シナリオライターになってからSFの依頼がよく来るようになって、やっていくうちに得意というか、好きになったっていう感じです。
――SFは仕事で触れる機会が増えて、得意になられたのですね。
月島氏:
そうです。SFでいうと…当時24歳ぐらいだったかな。スクウェア・エニックスに送る小説を書いている期間に、ジェイムズ・ティプトリー・Jrの『たったひとつの冴えたやりかた』を読みまして、すごく感動した覚えがあります。
逆に言うと、SFらしいSFに触れたのはそれが初めてぐらいでした。その3年後ぐらいに、再三話にも出している『ルートダブル』に携わることになりまして。
――SFの知識があまりない中で、SFの依頼が来たと。
月島氏:
はい。ルートダブルはガチのハードSFだったんですが、当時の自分の中にはほぼ『たったひとつの冴えたやりかた』しかSFの原型がなかったんです。なのでひたすら勉強して、なんとか書けるようになりました。
自分は多分周りからSF書きだと思われているし、自分でもそう思うんですけど、SFの知識に関しては全然ないのでちょっと恥ずかしいんですよね(笑)。自分の頭の中にあるSFを、ずっと書いているって感じです。
――ファンタジーは元々好きとお聞きしましたが、SFも依頼が来るようになってから見られるようになりましたか?
月島氏:
ええ。『ルートダブル』を書いた時に、ディレクターの中澤さんから「最低限これは読め」みたいなリストを頂きまして、本当に最低限の知識は得ました。以降もファンタジーと比べてそれほど積極的に読むわけではないですが、押さえるべき作品は押さえているという感じです。
SF作品って膨大だし、沢山読まないと語れない所があるから、未だに尻込みしてしまうところはあるんですよね。ただ、SFが持っている独特の空気感は昔から好きです。特にジュブナイルSFには心惹かれるものがあります。
印象に残った作品は
――今まで見てきた作品の中で、特に影響を受けたり印象に残ったものはなんでしょうか。
月島氏:
SFでは『ニンジャスレイヤー』シリーズが一番好きで、ずっと読んでいる最も影響を受けた作品です。
ファンタジーはやっぱり『ファイナルファンタジー』シリーズの特にⅠ~Ⅵと、『魔界塔士サガ』が、自分の中にずっとある不滅のランドマーク的な作品ですね。
――続いて、携わった作品の中で、特に印象深い作品をお聞きしてもよろしいでしょうか。
月島氏:
自分の原点であるファイナルファンタジーに関われたという意味で、メインシナリオを担当した『ファイナルファンタジーアギト』は印象深いです。
シリーズ初のスマートフォンRPGで、運営自体は2年ぐらいで終わってしまったんですが、とてもやりがいがありましたし、楽しくやれました。シナリオも自分なりに悪くない出来だったんじゃないかなと思っています。
――幼少期から好きだったFFに関わる、となれば気持ちも入りそうですね。
月島氏:
自分はゲームのシナリオもやるしノベライズもやる作家なんですが、FFシリーズでいうと『ファイナルファンタジー零式』のノベライズを先に担当させていただきました。
この作品はすごく力を入れて書きましたし、非常に反響も良かったんです。零式そのものの評価も高かったですからね。アギトは零式の続編的な位置づけの作品で、昔から好きだったFFシリーズを続けて担当させていただけた、というのは子供の頃からの夢が叶ったような感触でした。
――FFシリーズは昔から続く作品ですが、途中から入ることの難しさというのはありましたか?
月島氏:
ゼロベースから作る場合も、途中から入る場合も、それぞれ別の難しさがあると思います。自分は伝統を意識しながら新しいものを載せていく、という作業が得意というか好きな方なので、全然苦にはならなかったです。
ゲームに限らずですが、最近は昔の超大作をリメイクするような仕事も多いですし、そもそもシナリオライターは企画の途中から入ることも少なくないんですよね。他人が作ったものを活かす、というのは必須のスキルだと思います。
――ゼロからシナリオを作れるだけではシナリオライターは務まらないんですね。
月島氏:
自分はゼロベースから作る機会もある方なんですが、シナリオライター全体でいうと、途中から入って他人の企画で書く割合のほうが多いんじゃないかなと思います。
シナリオライターの仕事
――シナリオライターとして、大体どれぐらいのペースで作品に携わるのでしょうか。
月島氏:
この2年の間に6本の作品を作っていたので、大体年に3本ぐらいが平均です。1作品に長くて半年程度、大作RPGとかでも3~4ヶ月ほどで書き終わります。
ソーシャルゲームの場合だと後から追加することが多いので、月に2~3本短めのシナリオを書く、というのが2年とか3年続いたりします。
――確かに、コンシューマーとソーシャルゲームでは事情が変わりそうですね。
月島氏:
ソーシャルゲームは連載漫画に近い感覚ですね。このキャラが人気なんだ、とか、こういう表現が受けたな、みたいなユーザーさんの反応をTwitterなどで見ながら、リアルタイムで物語を作っていくようなやり方をしています。
コンシューマーの場合は、普段から身につけてきた考えとか、最近のトレンドを分析して、一気に書き切るという感じです。同じシナリオライターの仕事でも、ソーシャルゲームとコンシューマーだと全然やることが変わりますね。
――ソーシャルゲームの場合はユーザーの反応もそうですが、運営会社さんからの要望も込みで作るわけですよね。
月島氏:
そうですね。運営会社さんもSNSをチェックしてるでしょうし、人気があったり、売り出していきたいキャラを中心にシナリオを書いてくれ、という依頼が来ることもあります。
逆にこちらの方から、このキャラクターを深堀りすれば人気が出るんじゃないか、みたいな提案をさせて頂くこともあります。
――ソーシャルゲームの場合、他のプロジェクトと同時進行でシナリオを作ることも多そうですね。
月島氏:
ソーシャルゲームだと、ほとんどの場合運営期間=執筆期間になるので、その間はずっと何かと並行しています。
――次に、日々のスケジュール感を教えていただけますか。
月島氏:
まずは社内での打ち合わせですね。最低でも4時間、長くて12時間ぐらい喋ります。それとは別に社外、クライアントさんとの打ち合わせもあって、こちらは時間もまちまちですが、ほとんどの場合は1時間か2時間程度です。
週に1回か2回ぐらい、社外で打ち合わせをする機会があって、それ以外は社内でひたすら喋っているか、ひたすら書いているような感じです。すごいシンプルな日々を過ごしていますよ(笑)
――ライターといえばずっと物を書いているようなイメージがあったので、喋る時間が多いというのは意外でした。
月島氏:
やっぱり、話し合いを密にやって方向性を定めておく必要はあると思います。いきなり書き始めても空回ってしまうというか…駆け出しの時は結構空回りが多かったんですけど。
しっかりしたものを作る時は、話し合って心を通わせなきゃだめだなと思うようになり、実際このやり方に変えてから、提出したものが高評価を受けることが多くなりました。
担当プロジェクトの紹介
――今担当されているプロジェクトをお伺いしてもよろしいでしょうか。
月島氏:
アルテマさんにも取り上げていただいていた、『神椿市建設中。EMERGENCE』のストーリーデザインをチーム月島で担当させていただきました。
名義は『紫』であり、プロデューサーのPIEDPIPERさんと連名です。この作品はプレイヤーの皆様が主役となる作品であり、ライターとしてはあまり目立ちたくないので、いつもと名義を変えて『紫』を名乗っております。
――そうだったんですか!『神椿市建設中』は自分も興味があった作品で、記事も全部読んでいたんですよ。
月島氏:
そうなんです。なのでアルテマさんで大きく取り上げられていたのは個人的にすごく嬉しかったですし、今回のインタビューもそれ絡みだったのかなと思っていたんですが、全然関係なかったんですね(笑)。
――偶然ですね(笑)。
月島氏:
(笑)。もう一つ今担当しているプロジェクトでいうと、dゲームさんの方で『コードレガリア』というソーシャルゲームをずっとやっています。こちらはもう2年ぐらい書かせて頂いております。
――少し話題が遡ってしまいますが、ソーシャルゲームの場合どれぐらいのペースで依頼が来るんでしょうか。
月島氏:
うちはそこまでソーシャルに力を入れているわけではないんですが、まあまあのペースで依頼は来ます。並行する作品が増えるとしんどくなるのでいっぱいは受けられないんですが、年に3~4本は来ます。
――なるほど、ありがとうございます。他に担当されているプロジェクトはありますか?
月島氏:
今は休止中なんですが、ニトロプラスさんの20周年作品『咲うアルスノトリア』のシナリオに協力させていいただいています。このゲームもアルテマさんの方で取り上げていただいていましたね。
――本当ですか!そちらも初耳でした。もしかしたら自分が知らないだけで、他にも月島さんの作品を取り上げているのかもしれないですね。
月島氏:
かもしれませんね(笑)。ありがたいことに、色々なプロジェクトに参加させて頂いていますので……先ほどの二作品にもお声がけ頂き、とても光栄に思っております。
今後のチーム月島のビジョンとは
――最後に、チーム月島の今後について、目標やビジョンみたいなものはありますか?
月島氏:
今は何をやっても楽しくて、仕事だから大変なこともあるんですが、叶えたい夢がずっと叶っているような状況なんです。だから目標と言われるとちょっと難しいんですけど…。
そうだな…。ソーシャルゲームに携わることはあっても、ソーシャルゲームを1から作った経験はないので、プロジェクトに最初から参加してソーシャルゲームのシステムや世界観を作ってみたいというのはあります。
――ストーリーや世界観だけでなく、システムにもこだわりたいと。
月島氏:
もちろん、システムはシステムの専門家さんがやった方が良いとは思うんですが、ゲームの遊びの部分にも少し関わらせていただいて、システムとストーリーが完全に連動しているような美しいゲームを作りたいです。
――システムとストーリーの連動とは、具体的にどのようなものなんでしょうか。
月島氏:
ソーシャルゲームだと、ガチャを引いて育成して、戦闘してというゲームシステムがありますよね。どのゲームもよく見れば、ガチャを引く、という行為や育成する、という行為にストーリー上の意味を持たせているんですよ。
例えばガチャは、過去にいた英雄の魂を現世に召喚するものなんだ、みたいな説明って入ってくるじゃないですか。こういう、ゲームとして遊ぶ部分に物語性を持たせることを、システムとストーリーの連動と呼んでいます。
――確かに、そういう物語上の設定はどのソーシャルゲームのガチャにもありますね。
月島氏:
ソーシャルゲームの基本的な部分の連動については、みんな心得ていますけど、もっと他の部分にもこだわりたいですね。カードのフレーバーテキストを読むこと自体に意味合いを持たせたり、テキストそのものも工夫されていて、みたいな作品が密かに増えてきて、人気にもなってきていますし。
そういう、何もかもに物語的必然性があるゲームが美しいと思うので、自分もそういった作品に挑戦してみたいです。
ゲームの進化に合わせて、シナリオライターの仕事も変化している。インタビューの中で月島氏も言っていたとおり、連載漫画を書くようなライブ感や、他人の作ったものを活かす技術が、今のシナリオライターには求められている。
そんな中、昨今の情勢の10年以上前からリモートワークを取り入れていたり、会話によってテキストを完成させる手法を編み出したりと、彼らの先進性は計り知れないものがある。今後のチーム月島の活動にも、ぜひ注目していきたい。